日本は急ぎすぎたのです.これまでは,アメリカを模倣し,物質的な豊かさを求めて走り続け,多くのモノを得てきました.その結果,いま,「食べすぎでおなかが一体の状態」なのです.満腹であることを幸せと思ってきたけれど,ここにきて,膨満感に苦しみ始め,体の中にたまった老廃物を出そうという流れが起きているのです.この「不景気」という飢餓感は,いち通過点にすぎません.本当にお腹がすかないと何がおいしいかわからないように,足りない状態になってはじめて,本当に必要なものを選び取ることができるようになるからです.この先,私たちは,何を選ぶのか.それによって,また道は分かれますが,多くの人がすでに気づき始めているはずです.モノを持つことだけが幸せだと言えないということに.そして,人と競争し,その中で勝ち得る幸せが必ずしも心を満たすものではない,ということにも.幸せは自らの心の中にしか生まれないものです.幸せを測る基準を「他者」に置いていては,いつまで経っても満足することはできないでしょう.
江原啓之 『ニッポンを視る!』 pp. 213-4.
太平洋戦争中に国策として文化・芸術を否定されたまま敗戦を迎え,その後間もなく高度経済成長期に突入して,国民総出の大変な勤労の末,戦後の荒廃から未曾有の急速な経済発展を遂げた日本.元来は私たちも大切にしていたけれど,こういった経緯でしばらくの間忘れてしまっていた「こころ」を取り戻す時期が,今だ,というわけです.
世間体を気にしないで,人と競わないで,自分の内なる声に従って,自分の基準で生きていくことは,思いのほか「ラク」なことです.その意味では,もう少し「ラクをして」もいいのかもしれません.
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