"After you"(「お先にどうぞ」)というのは,ひとに順番などを譲るときに使える日常英会話表現のひとつ.英語圏では,譲り合いの精神が日本よりも多く見られるように感じます.イングランドのスーパーマーケットにいくと,レジのひとつがExpress Lane (エキスプレス・レーン)と呼ばれ,買う品物の個数が少ない(5~6個くらいか)お客さんが並ぶ列になっています.旅行や短期滞在の経験のある方はご存知と思います.英国では1週間分の食糧品を週末にまとめて買う家庭が多いこともあるかもしれませんが,大変合理的なシステムで,日本にも取り入れるべきと思うもののひとつです.
2007年に渡英した時,折り畳み傘を無くした私は,スーパーに買いに行きました.そのとき買ったのは小さな折り畳み傘一本だけでしたが,Express Laneは大抵,一番右端にあって(つまり,入口に近い),やけに広い店内をうろうろ歩きまわった後で疲れていた私は,すぐ目の前のレジの,年配の男性の後ろに並びました.何点もの食料品がコンベヤー(レジの手前に1.5メートルくらいのベルト・コンベヤーがあって,その上に商品を置いて店員の手元まで移動させる仕組み)の上に並べてありました.そのおじいさんは,私を見ると,笑顔でなにやら話しかけて来られます.彼の英語は,私には大変聞き取りにくく,最初は何と言われたのか全く聴き取れませんでしたが,彼の身振りやその場の状況から,あなたが先にチェックアウト(支払)しなさい,と言われているのだとわかりました.レジの女性も,「そうよ,あなたが先のほうがいいわ」とあっさり同意.ようやく事態が呑み込めた私は,彼にお礼をのべてレジを後にしました.
近所のスーパーで買物をすると,特に年末など混雑するとき,買う品物の個数の多い人ほど先を争うようにしてレジに並ぶ風景を目にすることがあります.ご夫婦で来られている年配の方々でさえそうなのです.こちらはひとりで,商品のあまり入っていないかごを軽そうにぶら下げていても,私たちが先よ,といった雰囲気で列に並びました.「私たちは時間がかかるから,お先にどうぞ」というのではないのです. イングランドでの経験も思い出され,あきれました.彼らの「こころ」のあり方に,です.
アルピニストの野口健さんがヒマラヤ登頂を果たした際,日本の登山隊が残すごみの量が多いことに呆れたヨーロッパのある登山家から,「日本は経済では一流だが,文化では三流だ」と言われた話は有名ですが,全くその通りです.
「一時が万事」というべきか,現代の日本人にはこうした自己中心性の強い人々がとても多いように感じます.自己中心性は未熟さの表れにほかなりません.「わがまま」とは,性格のひとつの型などではなく,人間の程度が低い,ということです.この認識を持つことが必要です.
自己中心性はさまざまな場面で,さまざまな形をとります.たとえば,オンラインゲームにおいても頻繁に観察されます.目標達成に必要な情報収集の労は惜しまない一方で,自分が知り得た情報を他の人々にも伝えて助け合おう,という姿勢に欠ける人々が多く見られます.そういうひとは他の人に頼んだり頼ったりすることは非常に得意でも,誰かのために自ら進んで情報発信しよう,知りえた分を分かち合おうと積極的に振る舞うことは多くありません.そして,そのことを指摘されると,「まだよく把握してないから」とか「従妹の手伝いで忙しくて」などと意味不明な言い訳をします.自分を正当化することにも決して手は抜きませんが,人のために動こうとか,相手を理解しよう,という姿勢は全くないのです.そういう人々は,人と心を本当に通わせることはできません.
「自分勝手なのではなく,自分のことをするのに精一杯で,人のことまで気遣える余裕がないのでは?」という声が聞こえてきそうです.同じことです.精神的に成熟した人は,人のために役立とう,尽くそう,という気持ちが豊かです.そして,自分のことは後回しにできるものです.自分のことは決して手抜きはしないが,他者のために時間やエネルギーを積極的に使おうとしない態度・生き方は,やはり自己中であるといわざるを得ません.また,口癖のように「面倒だから」という人を見かけますが,自己中が罪であるのと同様に,「怠惰も罪」であることを知ってください.
どんな些細なこと(スーパーでの買物に限らず,公共交通機関の利用時,ネットゲーム上の協力等々)であっても,自分は損をしたくない,できる限り得をしたい,とか,自分が上へ上がればそれでいい,自分たちが幸せなら何もいらない,といった気持ちに基づいて取ったあらゆる言動は,どこかで必ずそのツケを払うことになります.「自分だけ」得をしようとすると,必ずどこかで「自分だけ」損をすることになるのです.
他者の利益を優先できる心―そのような「きれいな気持ち」は,たとえ一時的に損をするように思えることがあっても,必ず大きな恵みを引き寄せます.
1/03/2014
登録:
コメントの投稿 (Atom)
2025年は大きな転換期
2025年7月5日(土)の早朝(夜明け前),フィリピン沖の海底火山が噴火して,周辺国と日本の太平洋沿岸に巨大津波(120mほど)が押し寄せ,国土の1/3から1/4 が津波に呑まれる,という予知情報があります。最初にこれが注目されたのは,下にも関連動画のリンクを貼っていますが,たつ...
-
東日本大震災が発生し,福島原発の事故発生から100日以上が経ちました.原発事故収束にはまだ至らず,原発周辺に暮らしていた人々,福島の人々,福島から首都圏へ非難されている人々はもとより,日本に暮らす私たちの非常に多くが不安を感じる日々です.「原子力は安全」と言われ続け,そのことばを...
-
To be free is to gain the knowledge necessary to loose the bonds that bind one, whether they be mental, physical, or spiritual (1215-8). 自由...
-
The atom can be used for good. Its power can lead to the betterment of humanity. Toxic byproducts do not have to be a part of the process....
0 件のコメント:
コメントを投稿