1/09/2013

同じで違うからいい−逆説は創造と成長の源

グラミン銀行を設立し,「貧困のない世界(poverty-free world)」を目指してソーシャル・ビジネス(social business 社会貢献型ビジネス)を展開するムハマド・ユヌス氏(2006年ノーベル平和賞受賞)によれば,人種や性別に関係なく,人間はみな同じ,という。98%は似ていて,違いは残り2%だけなのに,人はその2%を取り沙汰して,問題を必要以上に複雑にしている,と。バングラデシュで始まったグラミン銀行は,世界で最も裕福な国・アメリカはニューヨークに支店を開き,バングラデシュと全く同じシステムで多くの貧しい女性たちに少額無担保融資を行い,彼女らの自立支援に成功している。

社会的生物である人間は,心理学(マズローなど)で言うところの一次欲求(生理的欲求)と二次欲求(社会的,自我的欲求)の満足を求めるという点では同じだろう。また,人間はみな等しく神の子。その意味でも同じといえる。物理的にせよ霊的にせよ,マクロの視点で見ると同じだが,ミクロの視点で見ると,一人ひとり少しずつ異なる,ユニークな(unique 独自の,という意味)存在だ。世の中には実に様々な人がいる。外見は言うまでもなく,生い立ち,性格や考え方,職業,宗教,食べ物や服装の好み等,どれひとつをとっても相似形の人間などひとりもいない。

「同じか違うか」ということだけで言えば,私たちは,同じであると同時に違っていて,その両方があるからいいのだと思う。
* * *

社会的および自我欲求は,細かく下位分類されているが,おそらくあまり細かく区分する必要はないかもしれない。ひとが求める多くのものはほぼ2つに集約できると思うから。即ち,「安全」と「愛」である。

人は,生き延びるために生命の危険から身を守り,餓死しないようにエネルギー摂取しなければならない。そのために,住む家や食べ物が必要になる。家や食糧を手に入れるために,資本主義社会では貨幣が必要になる。貨幣を手に入れるためには働かなければならない。人々はより多くの貨幣を手に入れようとして,競争するようになり,格差が生じてきた。

なるほど,貨幣経済の発達が人間社会を複雑化させた大きな一因には違いないだろう。が,お金が諸悪の根源かといえばそうではなく,それを使う人間の未熟さが本当の原因であることは,いまさら言うまでもない。「馬鹿とはさみは使いよう」と言うが,お金に限らず,どんな文明の利器も,使い方を誤れば問題を起こすのは同じこと。放射能もレントゲンに使われるだけなら何の問題もなかったはずだが,兵器や燃料として使ったために,生命を脅かす脅威となった。インターネットも,情報収集,有益な情報の発信や,遠方の人々との通信手段として利用するなら便利で安全なツールだが,物欲を満たすために使えば,犯罪の温床になるのは自明のこと。しかし,人間は自らの落ち度を棚にあげて,やれお金が悪い,ネットの世界は怖い,とか,核は危ない,などと責任転嫁する。それらを危険な存在にしたのは,他ならぬ人類自身なのに。同じ論理は,子育てにも用いられる。子どもの様子が最近おかしい。どうやら不良グループと付き合っているようだ。親は,「息子が変わったのは,悪いお友達のせいなんです」と,不良グループのせいにする。自分の愛情が足りなかったことは振り返りもしないで。

人間にはまた,身の安全確保とともに,心理的な安全・安定を求める気持ちもある。それを満たすものが愛ということになろうが,愛には,より社会的なレベルで「承認」を求める気持ちも含まれている。人から尊敬されたい,大切に扱われたい,才能や努力を評価してもらいたい,という思いは,突き詰めれば「愛」を求める気持ちと同じだ。(こうした一部の欲求を,「名誉欲」と呼んで区別する人々もいる。)この世に,絶対的な客観評価や尊敬というものは存在しないからだ。そもそも人間は,表と裏しかない一枚の紙切れのような平面ではなく,さまざまな面を持つ多面的な存在である。Aさんは,相手の右側を見て仲良くしていても,Bさんには,同じ人の左側や裏側が目に留まっているかもしれない。その結果,同じ人でも,AさんとBさんとでは評価が分かれてしまう。仕事の評価も同じだと思う。この世の「評価」というものは何であれ,概ね相対的なものだろう。さほど実力のない人が,高い地位に就いているというのはよくある話だ。私たちは,真に厳正かつ公正な審査や査定を求めているわけではないだろう。評価するのも様々な事情や感情を抱えた人間であって,ひとは,自分の価値観に合うもの,自分の信念を否定しないもの,尊厳を脅かさないもの,端的に言えば,自分が「好きなもの」を是とする傾向が強い。冷静かつ客観的・論理的に見ている「つもり」でも,大なり小なり,エゴが混ざってしまう。つまり,承認や評価は,個人的な好悪の感情(好み)に左右され得てしまうものだといえる。そして,人間は,低い評価,正当ではない評価や不承認に対して,強いストレスを感じる。言いかえれば,個人的な生活においても,社会的場面においても,愛の不在や否定が精神的ストレスの主な要因であると考えられる。

* * *

こうして,根本的に求めているものは「同じ」でも,好みや価値観,人生観,性格,人格などの個性の「違い」があるから,人と人がぶつかり,悩み,成長していく。共通性と多様性−この二つが共存するからこそ,さまざまな葛藤・衝突が生じ,その緊張感や不調和の問題点を解消・解決すべく,調和と協調を求める動きが展開される。その過程で,新たな発明や知識が見い出され,各自が様々な学びの機会に恵まれる。地上世界とは,一見相反する要素が,互いに矛盾することなくプラスの相乗作用を新たに引き起こす,逆説が見事に行き渡った次元なのだと思う。


0 件のコメント:

コメントを投稿

2025年は大きな転換期

2025年7月5日(土)の早朝(夜明け前),フィリピン沖の海底火山が噴火して,周辺国と日本の太平洋沿岸に巨大津波(120mほど)が押し寄せ,国土の1/3から1/4 が津波に呑まれる,という予知情報があります。最初にこれが注目されたのは,下にも関連動画のリンクを貼っていますが,たつ...